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武器よさらば A FAREWELL TO ARMS アーネスト・ヘミングウェイ

51VQFWPHZNL 私が一番好きな小説の一つ。
後にノーベル文学賞を取るアーネスト・ヘミングウェイが、実に7年もの歳月をかけて生み出した傑作。
何年前に読んだのかは忘れたが、気が付いたら徹夜をしてしまい、しばらくは何もする気になれなかったのを今でもよく覚えている。
舞台は第一次世界大戦。アメリカ人のフレドリックは、イタリア北部戦線に身を投じていた(当時イタリアは同盟国を裏切り、協商側に寝返る。アメリカはルシタニア号事件(ドイツ軍がアメリカの民間船を爆撃)を受けて絶対中立(アメリカは当初中立)から協商側への協力体制へと移る。共に1915年5月の出来事)。そこで怪我を負ってしまい入院する。そこでキャサリンという名の、恋人を失ったイギリス人看護婦と恋仲になる。
ヘミングウェイ自体が、アメリカ赤十字の傷病搬送車要員として第一次世界大戦に参加している。その任務中に重傷を負ってしまい、入院先でアグネスというアメリカ人看護婦と恋に落ちる。ヘミングウェイ19歳の時である。
「文体革命」と呼ばれ、アメリカ文学界に大きな影響を与えたヘミングウェイであるが、「武器よさらば」はいい意味でアメリカっぽくない。
二次大戦以降のアメリカを、一言で表すならば「ヒーロー」であろう。
これは現在も変わっていない。
スーパーマン、キャプテンアメリカ、アルマゲドン、インデペンデンスデイ。
アメリカは世界の警察であり、絶対的なヒーローが世界を救ってきた。
「武器よさらば」は違う。フレドリックは世界を救わない。むしろ、誰も救わない。誰かを救おうとしてもことごとく失敗し、何度も殺されそうになる。
印象的な文章を引用したい。
「要するに、ぼくにとってはすべてが終わったのだ。僕はみんなの幸運を祈ってきた。いいやつもいれば、勇敢なやつも、平静なやつもいた。聡明なやつもいた。だれもが幸運を手にする資格をもっていた。が、いまやもう僕の出る幕ではなかった。僕はただひたすら、このろくでもない汽車がメストレに着いて、何か食べるものにありつき、考え事を辞められればいいと願った。とにかく、もう考えるのはごめんだった。~中略~とにかく腹が減った。~中略~しかし、彼ともう二度とあうことはあるまい。あの仲間たちのだれとも会うことはないだろう。ああいう暮らしは終わったのだ。~中略~今は何も考えられない。ただ食べたいだけだ。それ以外に何がある。食べて、飲んで、キャサリンと寝る。今夜にも実現するかもしれない。いや、それは無理だ。でも、あすの晩なら、可能性がある。~中略~日が暮れようとしている。僕は寝ころんだまま、どこを目指そうかと考えた。候補地はいくらでもあった。」
フレデリックがなんとか生き延びた後の文である。
村上春樹の、確か「羊をめぐる冒険」で、「武器よさらば」のことを、やたらと食事の描写が印象に残っている作品だと書いていた記憶がある。
食べることというのは、ある意味では未来への生存であり、希望なのだ。フレデリックは疲れ果てながらも、新たな生活、キャサリンとの生活に希望を見出す。
ヘミングウェイ自身の話。彼はアメリカに帰国したのち、アグネスから手紙を受け取る。
「あなたが好きだという気持ちにはまだ変わりありません。でも、それは恋人としての感情というより、母親の感情に近いと思う。~中略~わたし、近々結婚しようと思っているの。もしあなたがすべてを冷静に考え抜いてくれれば、私をきっと許してくれるでしょうし、あなたはあなたで素晴らしい人生をきりひらき、あなたの真価を世界に示してくれるにちがいないわ。そう、心から望み、また祈っています」
戦争の傷以上に、この手紙はヘミングウェイの心を傷つけた。その様子は短編「ごく短い物語」にくわしい。
フレドリックは無事にキャサリンと再会する。スイスへ亡命し、やがて子供までできる。
戦争の不条理を乗り越え、愛に満ちた生活を送る。
ハッピーエンドの予感、はしなかった。バッドエンドの予感。胸のざわつきが収まらない。
「ロストジェネレーション」
この言葉のもとは、ヘミングウェイやフィッツジェラルドなどにつけられた名前である。
そのことを、思い出しながら読み進めた。

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ラスト数行を、引用したいと思う。

「今はお入りにならないで」看護師の一人が言う。
「いや、はいらせてもらうよ」
「まだ、いけません」
「あんたのほうこそ出て行ってくれ」僕は言った。「もう一人も」
しかし、彼女たちを追い出し、ドアを閉めて、ライトを消しても、何の役にも立たなかった。彫像に向かって別れを告げるようなものだった。しばらくして廊下に出ると、僕は病院を後にし、雨の中を歩いてホテルまで戻った。

全てを読み終わった後、私は数時間動けなかった。




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