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ラバー・ソウル 井上夢人 

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東野圭吾、西村京太郎、池井戸潤

これらの超売れっ子作家は皆江戸川乱歩賞の出身です。

そして、私が最も好きな乱歩賞作家は、売れっ子であるどころかもうすでにこの世にはいない作家

エラリー・クインなど海外ではその例があるものの、日本では珍しい二人組の作家である岡嶋二人という作家をご存じだろうか?

残念ながら現在では解散し、そのうちの一人は井上夢人として今も活動を続けている。

ミレニアム三部作のみを発表して惜しくもこの世を去ってしまったスティーグ・ラーソンを除くと、唯一発表作のすべてを私が読んでいる作家です。

本作「ラバー・ソウル」は文庫本で660ページを超えるボリュームがありますが、読む手が最後まで止まらず、結局一日で読み終えてしまいました。

ネタバレしないように簡単にあらすじを

 

幼いころに罹った病気の影響で、姿かたちが異形となり、幼いころより学校にも行けず、産みの両親にさえ疎まれて過ごしてきて鈴木誠という男がいる。

彼の人生は世の中とは全く接点を持たず、唯一専門誌に寄せるビートルズだけが社会との接点だった。

そんな彼が世にも美しき女性三島江利子と出会う所からこの物語は始まります。

彼の持つクラシックカーを使用したいという編集者の頼みを聞いた鈴木誠は撮影モデルである美縞絵里と出会います。

撮影は順調に進んでいましたが、突如トラックが暴走し撮影現場に突っ込んできて、撮影モデルやカメラマンを直撃します。

混乱する現場、失われる命、鈴木誠は編集者の頼みを受けて美縞絵里、本名三島江利子を自宅まで送っていきます。

今まで女性と付き合うことは勿論話すことさえなかった鈴木は初めて助手席に座った彼女に狂気的に恋をし、彼女の周りにいる男たちを次々に殺害するモンスターへと変貌してしまうのでした。

 

構成の妙

 

この物語は、一度読み始めると読むのが止まらなくなります。

それは、岡嶋二人時代から続く井上夢人の類まれなる筆力が成せる業ですが、特に最初に飛び込んでくる「目次」の存在が大きな要因だと言えます。

この小説の構成は変わっていて、最初は鈴木誠の一人称で始まり、次に登場人物の独白(おそらくは取調室)、そして鈴木誠の1人称、そして独白という風に順を追って鈴木誠が起こした事件を振り返るという構成になっています。

これだけなら他の小説にもある手法ですが、先ほども少し触れたように「目次」の存在が特異で、「SIDE A」「SIDE B」に分かれているんですよね。

これが読んでいる方としては気になって仕方がない訳です。

A面とB面という意味ですし、作者があの井上夢人さんということもあって、何がどんでん返しがあるはずだと思わずにはいられないんですよね。

事件には何か裏があって、B面で今までの常識が崩れるんじゃないかと思うと楽しみで読むのが止められない訳です。

 

鈴木誠の1人称がたまらなく心に突き刺さる

 

東野圭吾の作品に「容疑者Xの献身」という映画化もされた話があります。

天才的な頭脳を持ちながらアカデミックハラスメント、いわゆるアカハラやポストドクター、いわゆるポスドクの問題で研究者にはなれず、容姿にも恵まれなかった石神が愛する女性のために犯罪を行う話でしたが、鈴木誠はその何倍も不遇な人生を送ってきました。

 

彼の容姿に関してはこのような描写がされています。

 

直立しているのに傾いでいて、右肩が下がって落ち込んでいて、そのうえに乗っている頭は逆に左に曲げられていました。身体全体がぎこちなく歪んでいて腰も右の方に極端に突き出しているんです。右足がねじれたに折れ曲がっていてつま先立ちしていました。

 

 

鈴木誠はコートを脱ぎ、帽子とサングラスとマスクを取ったんです。

「ー」

その場の全員が言葉を失いました。

 

 

 

鈴木誠の独白はどれも痛々しく、読んでいると心が痛くなってくる描写ばかりです。

 

すべての人間はぼくを蔑み、怖れる。

ぼくに不快感を抱き、怒りを露わにする。

僕を嫌厭し、疎外し、駆除しようとする。

そして哀れみ、嘆き、無視するのだ。

 

 

次から次へと辞めていく家庭教師は、17人以降数えることすらやめた。

そのころまでに、ぼくはすでに3度自殺を試み、三度とも失敗した。

 

 

いくつものBBSに加入し、寝る間も惜しんでチャットを繰り返した。

しかし、なんと僕は匿名の世界、顔の見えないつきあいの中でさえ参加者たちの話の輪からはじき出されることになってしまった。

それはおそらく経験不足だったからなのだ。~中略~話をすること自体が全くの未経験だったのだ。

 

 

 

 

~以下ネタバレあり感想~

 

話を読み進めるにつれ、段々違和感が大きくなって行くんですよね。

これは読者ならだれでも感じることなのか、それとも私が井上作品のファンだから思ったことなのかはわかりませんが、とにかく何かが変なんですよね。

作者の井上夢人さんは、岡嶋二人時代から割と動機は納得のできるような形にすることを意識している人でした。

「こんなんで人を殺すか? というミステリーは書きたくない」と「おかしな二人~岡嶋二人盛衰記」で書かれている方なのに、鈴木誠が犯行を重ねていく動機がなんだか不自然な感じがしていたんですよね。

生まれて初めて助手席に乗ってくれた女性に恋をした。

この点は納得ができるんですが、だからって近づく男たちを次々に殺すか?

黄色い部屋の謎で有名なガストン・ルルーオペラ座の怪人のファントムも似たような動機で殺人を行いますが、そこにはある種の目的があります。

鈴木誠は狂気に捕らわれながらその反面非常に冷静でした。

 

最近ではアイドルを相手にした殺傷事件も起きており、動機なんかめちゃくちゃな事件も多いですが、井上夢人さんがそんな動機で犯罪を行う人間を描写するだろうか?

そんな思いで読み進めていたら案の定違和感が大きくなっていったんですよね。

違和感と言えばボーナストラックの存在も違和感でした。

サイドAのボーナストラックは「Day Tripper」サイドBのボーナストラックは「We can work it out」

いずれもビートルズの名曲ですが、アルバム「ラバー・ソウル」に収録された曲ではないんですよね。

全て読み終わった今ならこれらの曲がボーナストラックにある理由もわかる気がしますけど、読んでいる間は違和感しかなかったですね。

あれほど外出するのを怖がっていた鈴木誠が頻繁に外に出るのも、またその姿を誰も見ていないのも違和感でしたし、何より頻繁に三島江利子に電話をかけているは違和感以外の何でもありませんでした。

だって、そういうことが一切できないのが鈴木誠なんだし、新しく変えた携帯の電話番号もどうやって知ったのか?という点などおかしな点が非常に多かった。

他の作家ならいざ知らず、井上夢人さんがそんな雑な描写をするわけがない。

と思っていたらやっぱりやられましたね。

読者をミスリードに導く作中作の存在は横溝正史の「夜歩く」なんかでもありましたけど、正直それほど成功したとは言えませんでしたが、これは見事にはまっていたと思います。

SIDE Bのトラック7になるとあれ?おかしいな、鈴木誠が死んでいるな。じゃあ、今まで取り調べ室で話していた鈴木誠は誰なんだ?あれ?

我々がミステリーに求めているもの。それがこの作品にはあったんだ。

 

鈴木誠と1人の友人と1人の女 女性は恋に恋するけれど男は自分に恋をする

 

 

この作品で一番好きな人物はダントツで金山勝信ですね。ダントツで一番嫌いなのは勿論三島江利子。

でも、三島江利子ってとてもリアルな女性描写だよなぁとも思います。

男性の描く女性ってある種男の作り出す理想像的な高潔なキャラクターが多いんですが、井上夢人さんの女性描写ってとてもリアルなんですよね。

あぁ、こういう女性いるよねって素直に思える。

男っていうのはある意味女性に恋をしないで自分に恋している所があって、鈴木誠なんかも最終的には自分に恋をしていたんだと思う。

だから三島江利子があんなんでも幻滅するってこともなく自らの意志を貫き通そうしたんじゃないかなぁと勝手に思っています。

そういう意味では三島江利子同様利己的とも言えるんですよね。

対して金山勝信は純粋に鈴木誠に愛情を持っていて、作中作で言っているように親子のように、でもやっぱり友達なんですよね。

草彅剛と香取慎吾みたいな。

イメージとしてはこんな感じ。

犯罪への加担は絶対ダメだけど、鈴木誠への友情を貫き通した金山さんは漢やで。

今回、ラバー・ソウルに関しては、井上夢人さんには珍しく最後に救いがあったと思う。

クラインの壺やメドゥサ、鏡をみてごらんのように明らかなバッドエンドが昔は多かったけど、魔法使いの弟子たちあたりからちょっとした救いの光をあてるようになってきたように思いますね。

ちなみに、読み終わった後のもやもや点として、三島江利子の犯行動機と三島江利子にストーカーをしていた宇野という人物が今何しているか気になる。

物語の核となる三島江利子最初の犯行の動機が、それこそそんなんで人を殺すかぁ?というものであったのはとても残念だった。

でもまぁ、三島江利子ならそれぐらいでやりかねないかな…

そして、そもそも宇野という人物は本当にいたのだろうか?

いや、もちろんフィクションなんだからいないんだろうけどさ。

ちょっと人生狂い過ぎてしまっているだろう…

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