体重減少の踊り場~ダイエットをしていると体重の減りやすい時期と減りにくい時期がある?~

ダイエットを始めてしばらくすると、体重が減っていたときと同じ量しか食べておらず、かつ同じように運動をしているにもかかわらず、体重が減らなくなるという話をしばしば耳にします。これは体重減少の踊り場(weight loss plateau)とか停滞期とかなどと呼ばれている状態です。

この体重減少の踊り場が生じることの理由として、次のような説明がなされていることが多いようです。

すなわち、動物は飢餓状態に対応するための生体機能を進化させ、食べ物が少なくなって飢餓状態になると、体を省エネモード(飢餓モード starvation mode)にして消費するカロリーを少なくし、食べる量を減らしていても体重が減らなくなる。

あるいは、動物には体の状態を一定に保つホメオスタシスというメカニズムがあって、摂取カロリーが減ると基礎代謝量(食事も含めて何もせずに横になっていても消費されるカロリー)などを低下させて、生命の維持のために体重の減少を防ぐようになっているので、ダイエットしていても体重の減少が止まってしまうなどと説明されているようです。

一見、分かりやすい説明ですが、本当はどのような変化が生じているのでしょうか?カナダ統計局やコロンビア大学(米国)の報告では、アスリートでさえ実際は、自分が思っているほどにはカロリー制限ができていない可能性のあることが指摘されています。つまり体重減少の踊り場は、摂取カロリーの制限が不十分になっていることにより生じている可能性があるということです。本当に体重減少の踊り場は存在するものなのでしょうか?ここでは、体重減少の踊り場に関連する研究を振り返りながら、体重減少の踊り場はあるのかないのか、そして体重減少の踊り場が生じるとするなら、それは体重減少に応じた基礎代謝量などの低下だけで説明できるのか、体重減少の踊り場が生じているとき、実際には体の中でどんなことが生じているのかなどについて解説しています。

プロトンリークやらミトコンドリアの脱共役タンパクやらなどという面倒な内容もありますが、分かりやすく説明しているので、読み進めていけば体重減少の踊り場の真実を理解できると思います。

神話のはじまり?ミネソタ飢餓実験

カロリー制限が長期間おこなわれると、心と体にどのような変化が生じるかについて語るときに、頻繁に引用される伝説的研究がミネソタ飢餓実験です。この実験の本来の目的は、ヨーロッパの大飢饉時に飢餓状態におちいった人々を治療する方法を探ることでした。しかし、飢餓時にどのようなことが生じるかという、飢餓の影響についての結果だけが一般に知られるようになりました。

この実験は、人間に対して行われた研究であるため、完全な絶食状態を再現したわけではありません。実験に耐えることのできた正常体重の成人32人に、24週間(約6ヶ月)の期間において体重が平均で約3/4になるような低カロリーの食事をさせました。体重60Kgの人が6ヶ月ほどで約45Kgまで減量するということですから、相当に激しい体重減少になりますね。この実験の結果、身体的な面では、基礎代謝量の低下、呼吸数の低下、心拍数の低下、血液内のタンパク濃度の低下、そして手足の浮腫などが生じました。なお、ミネソタ飢餓実験の参加者の写真は、BBCの記事(http://www.bbc.com/news/magazine-25782294)で見ることができますが、この実験への参加者はガリガリに痩せています。

困ったことに、この実験が約6ヶ月にもわたる長期の厳しいカロリー制限であったという条件が頭から消えてしまい、短期のそれほど激しくないダイエットでもミネソタ飢餓実験のような状態が生じると、短絡的に解釈されてしまうようになったようです。そして、カロリー消費(エネルギー消費)について観察された基礎代謝量の低下という結果だけが、一人歩きしてしまったようです。つまり、カロリー制限時の基礎代謝量の低下→カロリー消費が節約された状態(いわば省エネモード)→飢餓モードというように、繋がってしまった可能性があります。結局、ダイエットをすると人間の体が飢餓モードになってしてしまうために、ダイエットをしていても体重が減らなくなるというように解釈され、それが体重減少の踊り場であるとして理解されているのが現状ではないでしょうか。

確かに体重が減ることによって、消費カロリーは確実に減ります。体重が減ると筋肉をはじめとするカロリーを消費する体の組織が減るので、体重が減ると基礎代謝量が減ることは理解しやすいでしょう。また、体重が軽くなれば体を動かしたときに消費するカロリーも減ります。というのは、重いものを動かすより軽いものを動かす方がカロリー消費が少なくて済むからです。ここまでで言えることは、ダイエットして体重が減ると、消費カロリー(正確には「1日の総エネルギー消費量」)が減るということです。

そして、ダイエットにより消費カロリーが減るということは、ダイエット中の体重減少の踊り場は、論理的には必ず生じることになるのです。というのは、体重が減ったのちの消費カロリーが、ダイエットでの摂取カロリーと同じになれば「消費カロリー=摂取カロリー」となるので、食べる量も運動も同じようにしているのに体重が減らなくなります。これが体重減少の踊り場ですね。

しかし、ダイエット中に消費カロリーと摂取カロリーが等しくなるのは、かなり先の話なのです。ここでは詳しい計算手順は省きますが、体重70Kgの日本人男性(18~29歳)が、ダイエットして1ヶ月で体重の5%に当たる3.5Kg減量したとすると、摂取カロリーと消費カロリーが同じになる、すなわち体重減少の踊り場が生じるのは、体重が約51.5Kgになった時点です。これはダイエット開始から5ヶ月以上も経過してからになります。

しかし、多くのサイトでは「体重減少の踊り場はダイエットを始めて2週間から2ヶ月の時期に生じる」としているようです。計算上で得られた体重減少の踊り場の時期は、色々なサイトで記載されている体重減少の踊り場の発現時期に比べると、相当に遅れて生じることになります。体重減少の踊り場は、単に体重の減少に応じて生じる消費カロリーの低下だけでは説明できない現象のようですね。次項で、カロリー制限時に生じている実際の変化について解説します。

カロリー制限で体に何が生じるの? その1:消費カロリーの減少

まず、消費カロリーの減少について説明します。ダイエット時には、ミネソタ飢餓実験で示されたような基礎代謝量の低下以外にも、色々な領域で消費カロリーが低下します。

ところで、分かりにくい略号も合わせて表記すると、人が1日に消費するカロリーのことを「1日の総エネルギー消費量(TDEEあるいはTEE)」といい、「1日の総エネルギー消費量=基礎代謝量(BMR)+食事誘発性(体)熱産生量(DITあるいはTEF)+運動以外の身体活動量(NEAT)+運動による活動量(EATあるいはTEE[総エネルギー消費量と同じ略号になるので要注意])」という関係があります。

なお各用語の簡単な説明をすると、1日の総エネルギー消費量とは「体重を減らさずにいるために必要なカロリー」のことであり、基礎代謝量とは「食事も何もせずに横になって動かない状態で、脳や筋肉などの体の臓器や組織が消費するカロリー」のことです。食事誘発性(体)熱産生量とは「食べた物を消化吸収するときに消費するカロリー」と考えて下さい。運動以外の身体活動量と運動による活動量は、それぞれ「日常生活や仕事での身体活動で消費されるカロリー」と「スポーツやウォーキングなど日常生活以外の身体活動で消費されるカロリー」のことです。

そして、1日の総エネルギー消費量を100%とすると、基礎代謝量約70%、食事誘発性(体)熱産生量約10%、運動以外の身体活動量約15%、運動による活動量約5%となります。さらに、1日の総エネルギー消費量(消費カロリー)が、基礎代謝量の何倍であるのかを示す身体活動レベル(PAL)の標準値は、日本人の食事摂取基準(2010年版)において1.75程度であるとされているように、基礎代謝量が低下すれば1日の総エネルギー消費量も低下するのです。つまり、体重が減少する→基礎代謝量が低下する→1日の総エネルギー消費量(=基礎代謝量×1.75)が少なくなる、ということになります。この体重の減少に応じた1日の総エネルギー消費量の低下が、「体重減少から予測される」1日の総エネルギー消費量(消費カロリー)ということになるのです。

ところで、先に試算した体重減少の踊り場が生じる時期は、「体重減少から予測される1日の総エネルギー消費量(消費カロリー)の低下」から計算されたものでした。この試算による体重減少の踊り場が生じる時期は、多くのサイトで記載されている体重減少の踊り場が生じる時期に比べて、相当に遅い時期になっていたことを思い出してください。もし、体重減少の踊り場が生じる時期が、多くのサイトが示している、ダイエットを始めて2週間から2ヶ月後の時期に生じるのであれば、ダイエットにより体重が減少したときには、単純に体重の減少に応じて低下すると予測される量以上の消費カロリーの低下が、生じていることにならなければ説明がつきません。

米国のロックフェラー大学やワシントン大学の研究によると、体重を10%減量すると消費カロリーが20〜25%低下し、これは体重の減少から単純に予測される消費カロリーの低下量よりも、10〜15%も少ない量であるとしています。つまり1日の消費カロリーが、体重の減少から予測される量の2倍位以上も減ることになるのです。つまり、ダイエットして体重を減らすと、消費カロリーは体重の低下から予想される低下量以上に減るということです。これを「代謝適応(metabolic adaptation)」と言います。この代謝適応は、体重減少の踊り場が先に試算した時期よりも、かなり早い時期に生じることの説明の1つとなるでしょう。

また、カナダのオタワ大学A.Schwartsらのレビュー(過去の研究からの考察)によれば、2週間以上6週間未満のカロリー制限で、安静時代謝量(安静時に消費されるカロリー量のことで基礎代謝量の約1.2倍に相当)は、1Kgの体重減少につき平均で27.7Kcal低下するとしています。また、6週間以上のカロリー制限での安静時代謝量の減少は、1Kgの体重減少あたり平均で12.8Kcalまでに緩和されるようです。つまり、カロリー制限をしている期間が6週間以上になると、安静時に消費されるカロリーの低下する割合が少なくなるということです。要するに、カロリー制限後6週間以上を経過したときの消費カロリーは、カロリー制限後6週間未満の期間の消費カロリーよりも増加して、体重減少が起こりやすくなるのです。

ちょっとややこしくて混乱しそうですね。改めて説明すると、カロリー制限をして2〜6週間という短期では、体重の減少から予想される消費カロリーの低下よりも、実際の消費カロリーがより多く「減る」、すなわち「体重がより減りにくくなる」ということです。これが体重減少の踊り場に相当する時期かもしれません。6週間以上を経過すると、上記のごとく消費されるカロリーが増えてきて体重が減りやすくなるのです。そして、これが体重減少の踊り場を脱する時期であると言っていいのではないでしょうか。

カロリー制限で体に何が生じるの? その2:エネルギー産生の効率化

4〜5ヶ月という長期にカロリー摂取が妨げられると、ミトコンドリア(細胞内でエネルギーを作り出す部位)のエネルギー産生効率が、約25%も増加するとの報告があります(フランスのリヨン大学の研究)。

ところで、細胞のエネルギーはATPというものによって供給されますが、通常はミトコンドリア内膜にあるプロトン(陽子:プラスの電気を帯びた原子の構成物の1つ)がATP合成酵素に移動して、エネルギーを生み出すATPを作り出すことになります。ところが、基礎代謝量の20〜30%に相当するカロリー(エネルギー)は、プロトンリーク(proton leak)というメカニズムで、エネルギー源となるATPを作り出すことなく、ミトコンドリアにある脱共役タンパク(UCP)というタンパクにより、熱に変換されて体外に放出されてしまうのです。食べたカロリーの無駄遣いをする、つまり、エネルギー産生の効率が悪いということですね。

しかし、カロリー制限が長期間に及ぶと、このプロトンリークが少なくなってしまいます(ノースカロライナ大学のE.Trexlerらの総括)。プロトンリークは摂取したカロリーの無駄遣いですので、摂取したカロリーが体を素通りするようなものです。食べているのに食べていないのと同じ効果が得られます。これが意味するところは、ダイエットによるカロリー制限を行っていても、カロリー制限が長期に及ぶと、カロリーの無駄遣いが少なくなって徐々に痩せにくくなるということです。また、この変化は元の体重に戻るまで継続するので、リバウンドしやすくなることを説明するメカニズムであると言えるかもしれません。

さて、体重減少の踊り場に関連する短期のカロリー制限でのプロトンリークの変化については、明確ではありません。しかし、オタワ大学(カナダ)のプロトンリークに関連する報告では、短期(2週間から2ヶ月)のカロリー制限でも、プロトンリークの減少の結果として生じる細胞の酸素消費量の低下が、観察されたとしています。これは短期のカロリー制限時にも、プロトンリークが低下している可能性を示す結果であると言っていいのではないでしょうか。したがって、ダイエットの2週間後から2ヶ月後の間に生じるとされる体重減少の踊り場の発生にも、プロトンリークは影響を与えている可能性があります。

体重減少の踊り場の対処法は?

体重減少の踊り場すなわち体重が減らなくなった場合の対策は、摂取カロリーをさらに少なくするか、消費カロリーを増やす、あるいはその両方を行うことです。具体的には、筋トレとタンパクを多く食べること、それに加えてダイエットのスピードをゆっくりすることが信頼できる対策となります。その根拠となる学術研究をいくつか挙げてみます。

アラバマ大学やマサチューセッツ大学(いずれも米国)の研究によれば、体重の減少は筋肉量や基礎代謝量を減らすけれども、抵抗運動(筋トレ)をすることで、その減少を部分的には防止することができるとしています。筋トレは、体重減少の踊り場が生じにくくする効果があるということですね。

また食事について、イリノイ大学(米国)の研究では、タンパク質の比率の高い食事でダイエットした人の方が、筋肉の減少が約45%少なかったとしています。筋肉の減少は消費カロリーの低下を招き、カロリー制限のダイエットへの効果を悪くして、体重減少の踊り場が起こりやすくなりますから、高タンパク食は体重減少の踊り場を生じさせにくくするということを意味します。さらに、マーストリヒト大学(オランダ)やアリゾナ州立大学(米国)の報告では、高タンパク食は食欲の抑制と、1日あたり80〜100Kcalのカロリー消費(代謝)を促進するとしています。摂取カロリーが減って消費するカロリーが増えるので、これも高タンパク食が、体重減少の踊り場を防ぐ効果を持っているということを支持する結果ですね。

ダイエットのペースに関しては、1日のカロリー摂取量を1000Kcal以上も減らした人と500Kcal以下の減量とした人を比較すると、1000Kcal以上とした人は、体重減少の多くの割合が筋肉の減少であった(筋肉の多い人のみ)というロチェスター大学(米国)の報告があります。さらに、ノルウェースポーツ大学が行なった体重減少のスピードについての研究では、1週間あたりの体重減少の割合を、元の体重の0.7%に抑えた人と1.4%にした人に、それぞれ同程度の強い運動をさせて比較したところ、体重減少のスピードがゆっくりであった人(0.7%とした人)では、体脂肪が31%減少し脂肪以外の筋肉などの組織が2.1%増えた一方で、体重減少のスピードを速めた人(1.4%にした人)では、体脂肪の減少は21%にとどまり、脂肪以外の筋肉などの組織は0.2%減少したとのことです。筋肉の減少は消費カロリーの低下を招き、カロリー制限の体重減少への効果を低くして、体重減少の踊り場を起こりやすくするのは、先に述べた通りです。

これらの学術的な研究結果から、筋トレとタンパクを多く食べること、並びにダイエットのスピードをゆっくりすることが、体重減少の踊り場への有効な対処法となると言っていいのではないでしょうか。

おわりに

ここでは、体重減少の踊り場は生じるのか、体重減少の踊り場になった時に体の中でどのようなメカニズムが働いているのか、そして体重減少の踊り場に対抗する手段について解説しました。

体重減少の踊り場に関連する学術論文が、海外の権威ある雑誌にweight loss plateauという用語で掲載されていることから考えても、体重減少の踊り場が、実際に存在することは間違いないことのようです。

ただ、体重減少の踊り場が生じる時期については、明確な記載がないようです。体の計測機器メーカーで健康食の食堂を出店しているタニタの運営するサイトには、ダイエットを始めて約1ヶ月を経過した時期か体重が約5%減少した時期に、停滞期という表現で体重減少の踊り場がはじまるとしています。また、ラヴァル大学(カナダ)の報告では、元の体重が11.2%減った時点が体重減少の踊り場に相当するとしています。体重減少の踊り場がいつ訪れるのかは、正確には分からないようです。体重減少の踊り場が訪れる時期は、ダイエットのスピードや運動強度など、いろいろな要素が絡んでいるものと考えられます。

しかし、体重減少の踊り場への有効な対策はあります。その対策とは、先に述べた筋トレとタンパク質を多く摂ること、そしてダイエットのスピードをゆっくりすることです。この他、定期的に短期間だけ摂取カロリーを意図的に増やす時期を作ることにより、食欲を抑制して代謝を促進するレプチンの分泌を増やすことも、スポーツ界ではよく行われているようです。この周期的リフィーディング(periodic refeeding)という方法は、体重減少のスピードは遅くなるものの、採用してもいい方法かもしれません。

ところで昨今、欧米に限らず日本でも、肥満対策は重要な保健課題となっています。そして、色々なダイエット法が考案されていますが、どのダイエット法を行うにしろ必ず体重減少の踊り場経験することになるでしょう。体重減少の踊り場は正常な人体機能の1つであり、体重減少の踊り場になってしまったとしても、落胆せずカロリー制限と筋トレを含む運動や高タンパク食などを継続すれば、必ず体重減少の踊り場を脱することができるはずです。今回ここで解説した体重減少の踊り場の発生メカニズムや対処法も参考にして、体重減少の踊り場をやり過ごし、ダイエットを成功させてくださいね。

筆者紹介:米澤利幸
島根医科大学(現島根大学医学部)卒業
福岡大学大学院修了(医学博士)
日本精神神経学会認定専門医
赤坂心療クリニック院長

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